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<<   作成日時 : 2011/07/07 04:45   >>

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夜の闇に舞う蛍の姿を見に行かなくなって久しい。
僕は、何年か前にとある山中の渓流で見た幻想的なホタルの乱舞を
忘れることができない。
その頃、毎年蛍の時季がくると、乱舞が見られる場所を求めて、あち
こちをうろうろしていた。
もちろん蛍の写真を撮影することが目的だった。
僕にも、虫や草花、自然の風景を撮っていた時代があったのだ。

蛍の群舞とか乱舞と云われるものを見たいと思ったら、出現情報を
発信している蛍の名所を訪れるのが確実だ。
しかし、そういう場所は、見物客が多いし、外乱光も多くて撮影には
適していなかった。

その年行った場所は、西宮から300キロほど離れた山間の渓流で、
蛍の名所としてまだそれほど知られていない場所だった。
そのため、情報が少なく、その流域のどこで蛍の群舞が見られるの
か特定できなかったが、「行けばわかるだろ」と出たとこ勝負で出掛
け、昼の間にロケハンし、目星をつけた場所で日暮れ前から待った。

曇天の空には月明かりも星影もなく、山の端と空の境目も消え、漆黒
の夜になった。
渓流の音と、森の中から聞こえるヨタカの単調な鳴き声。
時折ホトトギスが「特許許可局、特許許可局」と鳴きながら、頭の上を
飛んでいった。
足許は夜露を含んだ草むらで、マムシに注意しながら(と云っても暗く
て見えないが)、3本の三脚に3台のカメラをセットして待っていた。
草むらから立ち上る湿気で濡れた身体が山の冷気で冷えてきたことも、
夥しい数の小さな羽虫や蚊の襲来も気にならなかった。
しかし、光の妖精は、時折ぽつ、ぽつと現れはするものの、なかなか増
えてくれなかった。
日暮れから随分時間が経ち、期待はずれだったかなと、あきらめかけ
た頃だった。
ひとつ、ふたつ、と数えられるほどだった明滅が、急に闇の森の奥から、
地面から、渓流から、次々と生まれ出てくるように、増え始めたのだ。
そして、その数は、僕の想像をはるかに超えていた。

30分程の長時間露光である。
シャッターをバルブにして開け、待てばよかった。
ただ、山深い場所とはいえ、ごくたまに峠越えをする車が通る。
その時、ヘッドランプの光跡をフィルムに写し込まない(遮光)ために、
レンズに蓋を被せる作業だけは、必要だった。

蛍は、僕の身体を巻くように、すり抜けるように、飛び交い、舞った。
手をかざせば、掌に飛び込んできそうだった。
いつのまにか、渓流の上だけでなく、岸の草むら一帯にまで蛍の舞は
広がり、僕は、蛍の群れの中で、蛍を纏うように立っていた。
蛍は、カメラや三脚にも近づき、時にはカメラの上に止まったりした。
漆黒の谷間に佇んでいると、上下左右の感覚に自信がなくなってくる。
地面さえ見失うような闇。
まるで無重力の宇宙を漂っているみたいだった。
闇の中を明滅する無数の蛍火が近づき、離れ、果てない宇宙へと
僕をいざなうのだ。
蛍の明滅は一定周期で、明から暗へ、暗から明へゆっくりと変わる。
そして、明から暗へ変わるときは、そのまま二度と灯らないのではない
か、と思ってしまうくらい儚く消えていくのである。
幻影のような光景が続き、時間は過ぎていった。

蛍の群舞は、やがて、少しずつ遠のいていくように数を減らしながら
1時間ほどで終幕を迎えた。
パーティーのお開きの時のように、一瞬の静寂があったような気が
した。
渓流の音が大きくなり、キョキョキョキョと鳴くヨタカの声が、再び
どこからか聞こえ始めた。
しかし、僕の頭はぼーっとしていて、すぐには夜露に濡れた撮影機
材を撤収する気分には、なれなかった。

この時ほど見事な蛍の乱舞を、僕は後にも先にも見たことがない。
まぎれもなく僕という実体が見た現実なのだけれど、
今でも、あれはやはり幻影ではなかったか、と思う時がある。
蛍火の群れは、闇の向こうへ向かっているように見えた。
そこは彼岸という場所で、蛍火の明滅と見えたのは、太古から世代
を重ねながら続く生命の命火ではなかっただろうか。
ふと、そんなふうに考えたりする時がある。
いつかまた、蛍の乱舞を見に行きたいと思う。

この時撮影したポジフィルムは、すべてどこかへ行ってしまい、
僕の手元には残っていない(本来は、戻ってくるはずなのだが)ので、
写真は本文とは全く関係がない(ドイツの写真です)けれど、
毎度のことなのでご容赦を。


  ぼやいてすみませんが、このBIGLOBEウェブリブログでは、
  写真をアップすると、元の画像よりも画質がかなり落ちることに
  以前からイライラしている。 
  特に暗部が黒く潰れてしまうのにはがっかりさせられる。
  今回は、夜の写真で全体的に黒いが、プリントをスキャンして作った
  JPEG画像では、暗部の階調もきちんと表現されていた。
  アップロードする際、自動的にファイルサイズが縮小されてしまうの
  で、その影響だと思う。
  このことについてだんだん我慢できなくなってきたので、ブログの引
  っ越しを考え始めた今日この頃なのである。
  

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
え〜そんなに苦労して撮影したフィルムがないのですか!
見てみたいな〜。その写真。

そういう場所には決していくことができません。
怖くて…。でも蛍の乱舞って見てみたいです。
蛍の名所に行ったことがありますが
ラメラマンだらけのにぎわい。
蛍より人のほうが多くて、全然、撮影できずでした。
たこりん
2011/07/09 00:02
たこりんさん

こんにちは。
そうなんです。
蛍を撮ったポジは、預けていたんですけどどこかへいっちゃいました。

撮影は、街灯などの明かりがわずかにある場所の方が、周囲の様子も写し込みやすくていいみたいです。
ここは真っ暗なので、30分露光しても背景がほとんど写らず、闇の中に蛍の光跡だけが浮かんでいる仕上がりになります。
背景を明るいうちに超アンダーに撮っておいて、二重露光するのがいいかもしれません。

それと、山の中の人が居ない場所なので、少し気味が悪いことはたしかです。
しかし、有名な蛍の名所は、人が多いので気味悪くはないですが、三脚を立てての長時間の撮影は無理なのでしょうね。

ほんとに、僕もまたいつか見たいです。
yasuwan
2011/07/09 12:05

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